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研究案内

喘息

気管支喘息

1.喘息の2型免疫反応における活性イオウ分子種の役割解明 (図1、2)

世界的に免疫・アレルギー疾患の罹患率は増加し、本邦でも約2人に1人は喘息やアトピー性皮膚炎などアレルギーを有するとされています。アレルギー疾患の共通特徴である2型免疫反応には、2型ヘルパーT細胞(Th2)を中心とした獲得免疫機序と2型自然リンパ球(ILC2)を介した自然免疫機序があります。これら免疫細胞の新規活性化制御機構を解明することは、免疫・アレルギー疾患の診断・治療および予防法の開発に必須であります。Th2細胞も含め免疫細胞の活性化・増殖・分化には、解糖系などの代謝調節や酸化還元制御が重要であることが報告されています。最近当教室ではシステインパースルフィド(CysSSH)に代表される活性イオウ分子種がマウス諸臓器のみならずヒト肺にも存在していることを明らかにしました。活性イオウ分子種は新規の内因性還元分子であり、極めて高い抗酸化能を有する他、ポリスルフィド化を介したタンパク質機能制御にも関与しています。さらに生体内の主要な活性イオウ分子種合成酵素 (CPERS)としてミトコンドリア型cysteinyl-tRNA synthetase(CARS2)が新たに同定されました。CARS2/CPERSはミトコンドリアエネルギー代謝にも関与していることが分かってきています。一方、2型免疫反応に関わるT細胞およびILC2の機能制御におけるCARS2/CPERSおよびイオウ代謝の役割は全く不明です。当教室では、本学環境医学分野、免疫学分野、加齢医学研究所遺伝子発現制御分野との共同研究で、この新規抗酸化分子産生酵素Cars2ヘテロ欠損マウスを用いた獲得免疫型および自然免疫型の喘息モデルを作成し、2型免疫における活性イオウ分子種の役割を個体レベルで検討しています。また、活性イオウ供与体を用いた解析を行い、免疫細胞に対する作用と作用機序を検討しています。

本研究では、活性イオウ分子種およびイオウ代謝によるT細胞およびILC2細胞の機能制御機構の詳細を解明し、活性イオウ分子種供与体を用いた新規免疫・アレルギー治療を創出するための基礎確立を目標に研究を行っております。

 

 

2.ミトコンドリア新生制御因子を介した気道上皮バリア機能の調節に関する研究(図3)

ミトコンドリアの機能異常が喘息やCOPDの病態に関わっていることが近年報告されていますが、当科ではミトコンドリアの品質管理に重要なプロセスであるミトコンドリア新生に着目し、喘息病態との関連を解析しています。ダニ抗原(HDM)による喘息動物モデルで検討したところ、HDMによりマウス気道内のミトコンドリア新生調節因子であるPGC1αやミトコンドリアのDNAを反映するTFAMなどのタンパク量が減少することがわかりました。気道上皮細胞を用いた検討では、HDM投与によりPGC1αやTFAMなどの発現の減弱とともに細胞内のミトコンドリア量も減少しました。PGC1α活性作用を持つSRT1720を投与するとHDMにより誘導される上皮細胞のバリア機能障害や細胞間タイトジャンクション蛋白の減少が抑制されました。以上の結果からPGC1αが喘息病態、特に上皮機能障害に関与している可能性が示唆されました(Saito T, Ichikawa T, et al. Respir Res 2021)。

図3:ミトコンドリア新生制御因子を介した気道上皮バリア機能の調節

 

 

3.アレルギー疾患対策都道府県拠点病院モデル事業

本邦におけるアレルギー疾患の患者割合が増加していることを背景に、「アレルギー疾患対策基本法」の制定、「アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針」が策定され、アレルギー疾患に関する医療提供体制の整備や国民への普及・情報提供等の対策が推進されています。都道府県毎に制定されるアレルギー診療拠点病院として、宮城県では東北大学病院、宮城県立こども病院が指定を受け、その役割を果たすことが期待されています。当院では、令和2年度厚生労働省アレルギー疾患対策都道府県拠点病院モデル事業に採択され活動を継続しております。当科では、当院の皮膚科、耳鼻咽喉・頭頸部外科および宮城県立こども病院アレルギー科と連携し、東北大学クリニカル・スキルスラボのご協力を頂いて、患者相談事業、ホームページ作成による情報提供、コメディカルを対象にした研修会、県内の小中学校600校および1800の医療機関を対象にした実態調査を行って参りました。その結果、仙台市以外ではアレルギーに関する行政・診療が不十分である可能性が示唆され、今後、地域偏在性の改善に関する取り組みが重要であることが浮き彫りにされました。さらに、患者相談事業では、一般市民の皆様から、アレルギーに関するお悩みをメールで引き受け、アレルギー拠点病院に所属する専門医等で議論し回答をしております。今後も、アレルギー診療等に関する偏在性改善に向けた努力を重ねて参ります。

 

4.AMED研究開発課題「重症気管支喘息に対する先制医療を実現するためのマルチオミックスを用いた探索的研究」

重症喘息患者は多くの疾病負担を強いられており、喘息重症化の予防、およびその効率的な治療・管理法の確立は喫緊の課題です。我々は、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)を代表機関として実施された、AMED先端ゲノム研究開発課題に参画し、喘息のバイオマーカーである呼気NO濃度(FeNO)に関する世界初の大規模GWASを実施しました (Yamada M, et al. Communication Biology 2021)。現在、AMED (免疫アレルギー疾患実用化研究事業) の支援を受けて、重症喘息を標的としたマルチオミックス解析を進めております。

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