研究案内

COPD

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

1.COPDにおける肺胞マクロファージの機能異常に関する研究

肺胞マクロファージは環境由来の異物、病原微生物を速やかに貪食・排除することにより生体防御の維持に重要な役割を果たしています。COPDでは、この肺胞マクロファージの細菌貪食能が低下していることが知られていますが、詳細な分子メカニズムは明らかにされていませんでした。当科では、呼吸器外科との共同研究で、ヒト肺組織から肺胞マクロファージ上の細菌貪食に関与する受容体の発現を調べところ、Non-typeable Haemophilus influenzae の貪食に重要なSiglec-1という細菌のシアル酸を認識するレクチンがCOPDでは有意に低下していることを明らかにしています (Tanno A, Fujino N, et al. Respir Res 2020)。現在、COPDにおける肺胞マクロファージの機能低下、および臨床病態に与えるインパクトをヒト肺組織を用いた研究で解析中です。

 

 

2.COPD増悪抑制を目指した気道粘膜防御能の脆弱性とその改善 (図1)

当科では、これまでに病原微生物由来抗原が種々のToll様受容体(TLR)を介して気道分泌に異常な量的変化を引き起こしCOPD増悪に関与し得ることを報告してきました (Am J Respir Cell Mol Biol. 2011, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2013, Exp Physiol. 2018)。気道感染に伴うCOPD増悪の制御を目指して、COPD気道に存在する粘膜防御能脆弱性に影響する因子の解明とその改善、特に気道分泌腺からのHCO3分泌によるpH調節や抗菌蛋白活性の保持など質的特性の最適化を可能とする研究を、主に新鮮分泌液と線毛運動機能に対する効果によって検討し、前者を報告することができました(Aritake H, Tamada T, et al. Pflügers Arch 2021)。現在、質的異常と気道粘膜防御能脆弱性との関連を明らかにし、細菌やウイルスに対する易感染性を改善する治療薬開発へつなげ、感染に伴うCOPD増悪の制御を可能とする安全で有効な新規治療法を確立を目指しています。さらに、長時間作用性β2刺激薬(LABA)がCOPD増悪を減少させる機序の1つとして気道上皮線毛運動の改善があると仮説を立て、気道上皮由来の初代培養細胞の線毛運動観察法の確立を目指し研究を進めています。

図1: 長時間作用型気管支拡張薬が新鮮気道分泌液の特性に与える影響解析
LAMA/LABA併用による気道分泌液の質的改善効果を解明

 

 

3.閉塞性肺疾患病態における自然免疫の関与(図2)

肺は外界と直接に接し、病原体や環境因子に常にさらされている臓器であり、その恒常性 を保つための生体防御機構として自然免疫は重要な役割を果たしています。COPD増悪の主因はウイルス感染と考えられており、それらに対する自然免疫応答の異常が増悪病態に関与する可能性が示唆されています。我々は、喫煙や炎症細胞由来の酸化ストレスがウイルス由来の RNAを認識するToll様受容体(TLRs)の反応性を増強し、COPD病態およびその増悪時の気道炎症増強や肺胞構造破壊促進に関与する可能性を示してきました(Koarai A, et al. Am J Respir Cell Mol Biol 2010) (Koarai A, et al. Respirology 2012)。また、自然免疫では障害を受けた細胞から放出され周囲細胞の炎症応答を惹起するダメージ関連分子パターン(DAMPs)の概念が重要であり、中でも我々はウイルス感染時のケモカインや2型自然リンパ球の誘導にかかわるIL-33の産生が酸化ストレスにより増強されることを明らかにしました(Aizawa H, Koarai A, et al. Respir Res 2018)。

生体内にはRNA以外にもDNAを認識する機構も存在しており、ウイルス由来のDNAや細胞傷害時に生じる核やミトコンドリア由来のDNAを認識することで生体防御反応が惹起されます。近年、新たなDNA認識機構としてcyclic GMP- AMP synthase (cGAS)stimulator of interferon genes(STING)経路が発見され、その役割に注目が集まっています(Science 2013)。現在、我々は、COPD病態におけるcGAS-STING経路の関与について検討・解析を進めています。

図2: COPD病態におけるToll様受容体を介した自然免疫の関与

 

 

4.安定期COPD患者に対する薬物療法に関するシステマチックレビュー

COPD第6版ガイドラインの改定にあたり、「安定期COPD 患者に対する薬物療法として、LAMA/LABA 治療にICS を追加することは有用か?」というクリニカルクエスチョンに対するシステマチックレビュー(SR)を実施し、増悪歴のある中等症―重症のCOPD患者では Triple 療法はLAMA/LABA治療に対して有意に増悪および死亡頻度を減少し、SGRQ およびTDI スコア、トラフFEV1 を改善するが、肺炎の合併頻度が有意に高く、ICS追加の際には肺炎合併には注意が必要であるという結果が得られました(Koarai A, et al. Respir Res 2021)。また、日本人に関しても同様のSRを行い、日本人COPDにおけるTriple 療法の有用性が確認されましたが、日本人ではICS の追加により肺炎の合併がGlobalよりも高く、より肺炎の合併に注意が必要であることを報告しました(Koarai A, et al. Respir Investig 2021)。

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